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東京地方裁判所八王子支部 平成4年(モ)1479号 決定

債権者

池田徹雄

債権者

加藤清

債権者

松崎正孝

右三名訴訟代理人弁護士

鈴木亜英

小林克信

中村秀示

河邊雅浩

債務者

ゾンネボード薬品株式会社

右代表者代表取締役

佐藤功記

右訴訟代理人弁護士

外川久徳

野中康雄

主文

一  債権者らと債務者間の当庁平成三年(ヨ)第五五〇号地位保全仮処分申立事件について、当裁判所が平成四年一月二四日にした仮処分命令を認可する。

二  訴訟費用は債務者の負担とする。

理由

第一事案の概要

一  ゾンネボードグループの概要

債務者会社は、昭和六三年一〇月一日、申立外ゾンネボード製薬株式会社(資本金六六四〇万円。以下「製薬会社」という。)から分離、設立された医薬品の販売を目的とする資本金一〇〇〇万円の株式会社であり、右製薬会社とともに「ゾンネボードグループ」を形成している(争いがない事実)。

平成三年一〇月当時におけるゾンネボードグループの取締役及び従業員の総数は六二名(パートタイマー二三名を含む。)である(〈証拠略〉)。

二  債権者らと債務者会社間の契約関係

債権者松崎正孝(以下「債権者松崎」という。)は昭和二八年四月に、債権者加藤清(以下「債権者加藤」という。)は昭和三三年三月に、債権者池田徹雄(以下「債権者池田」という。)は昭和四一年八月に、それぞれ製薬会社に入社して主として医薬品の宣伝活動を担当し(債権者松崎及び同池田は昭和六一年一〇月会社都合により一旦退社した後、昭和六二年四月に再雇用された。また債権者加藤は、昭和六一年五月に取締役に就任したが、昭和六三年九月辞任している。)、昭和六三年一〇月、債務者会社設立とともに同社に移籍し、債権者松崎は宣伝部門の部長、債権者池田は同部門の副部長、債権者加藤は同社の取締役に就任した(争いがない事実)。

三  第一次解雇

債務者会社は、製薬会社と連名で、平成三年一〇月二八日、業績悪化に伴う宣伝部門廃止を理由に、債権者池田及び同松崎に対しては解雇の、債権者加藤に対しては解任の各通知をし、なおこのほか、両会社を通じ八名の者に対し解任ないし解雇の通知をした(以下「第一次解雇」という。(争いがない事実))。

四  本件仮処分命令

債権者らは、第一次解雇が無効であると主張し(債権者加藤については債務者会社との間で労働契約を締結していたことを前提として)、地位保全及び賃金等の仮払仮処分命令を求める申立をなし、平成四年一月二四日、地位保全については申立と同旨の、賃金等の仮払いについては平成三年一一月以降の未払分を含めた賃金(本案第一審判決言渡まで)並びに債権者池田及び同松崎に関して平成三年冬期賞与の各仮払いを命ずる決定がされた。

なお、製薬会社から解任ないし解雇された者のうち二名についても同旨の仮処分命令が発せられている(争いがない事実)。

五  第二次解雇

債務者会社及び製薬会社は、本件仮処分命令発令後、これに従って債権者らに対して賃金等の仮払いを行うとともに、東京西部一般労働組合及び債権者らが結成した同組合ゾンネボード分会と団体交渉を重ねたが、債権者らの復職が不可能で解雇は不可避であるとして、平成四年七月八日付内容証明郵便をもって、債権者ら及び製薬会社から解雇されて仮処分命令を得た者二名に対し、改めて解雇する旨を通知し(以下「第二次解雇」という。)、右内容証明郵便は、債権者池田及び同加藤には同月九日、債権者松崎には同月一〇日、それぞれ到達した(争いがない事実)。

六  債務者会社の主張

(前記ゾンネボード製薬事件と同旨のため省略)

第二主要な争点

一  本件異議申立は、債権者らと債務者会社との間における、本件仮処分命令に対して異議申立等を行わないとの合意に反してなされた不適法な申立か。

二  債権者加藤は、債務者会社との間で労働契約を締結した労働者であるか。

三  第一次及び第二次解雇は、

1  整理解雇の必要性がないこと

2  整理解雇回避努力が尽くされていないこと

3  整理解雇基準が恣意的であること

4  債権者らに対する事前の説明及び協議がなされていないこと

により、解雇権を濫用したものとして無効であるか。

四  債務者会社は、第一次解雇を撤回したか。

五  第一次及び第二次解雇は、解雇予告手当の提供がなく、または債権者らに一旦振り込まれた解雇予告手当を債務者会社が取り戻したことにより無効であるか。

六  第二次解雇は、債権者らが労働組合を結成したこと及び組合員であることを嫌忌してなした不利益取扱いであり、不当労働行為として無効であるか。

第三判断

一  争点一(本件異議申立の適法性)について

(前記ゾンネボード製薬事件と同文のため省略)

二  争点二(債権者加藤の労働者性)について

(証拠略)及び審尋の全趣旨によれば、債権者加藤は、債務者会社設立とともにその取締役(営業部担当の常務取締役)に就任したが、平成元年一一月、債務者会社における担当職務を他の取締役に引き継いだ後、製薬会社の株主総会において取締役に選任されていないにもかかわらず、債務者会社代表取締役らの指示により、製薬会社の常務取締役を名乗って同会社の業務部原資材倉庫を担当するようになり(ただし報酬は債務者会社から受領していた。)、それ以後、資材運搬・管理、伝票処理等裁量の余地の少ない業務に従事していたこと、債権者加藤は、平成二年七月から同年一〇月までの間には、近県の病院及び薬局を訪ねて医薬品の宣伝活動を行うなど債務者会社の業務にも時折従事したが、その当時も製薬会社の業務を担当しており、宣伝活動等その一存で行う立場になく、右宣伝活動等は債務者会社代表取締役らの指示に基づくものであったこと、債務者会社及び製薬会社の役員規定には、取締役の一部の者で構成される常務会の決議によって取締役を解任する旨の規定があり、第一次解雇の際、債権者加藤については、株主総会における取締役解任の決議はなく、右規定に従った常務会の解任決議なるものに基づいての解任通知がなされたことが認められる。

右事実によれば、債権者加藤は、いわゆる在籍出向の形態により、主として製薬会社において労務を提供し、ときには債務者会社代表取締役らの指示に基づき同会社の非日常的な業務に就労し、右労務提供の対価として債務者会社から報酬を得ていたもの、すなわち債務者会社との間で労働契約を締結し、同社に使用されて賃金を受領していた労働者であるということができる。

三  争点三(解雇権の濫用)について

1  (証拠略)及び審尋の全趣旨によれば、債務者会社の平成元年一〇月から平成二年九月までの第二期(事業年度。以下同じ。)経常利益はマイナス約三〇一万円、平成二年一〇月から平成三年九月までの第三期経常利益はマイナス約一二一六万円であり、第三期からは利益配当がなされていないこと、債務者会社の財務と連動している製薬会社の経常利益も、平成元年四月から平成二年六月までの第五〇期が約一九六二万円であったのに対し、平成二年四月から平成三年三月までの第五一期は約一〇六万円、平成三年四月から平成四年三月までの第五二期はマイナス約六五八万円と減少傾向を示し、第五二期から無配当となっていること、債務者会社及び製薬会社は各期において次期繰越利益を計上しているが、その額は前記よりも減少している(ただし、製薬会社第五一期の次期繰越利益は前期よりは少ないが、第四九期のそれよりも多い。)こと、債務者会社の平成三年九月三〇日現在の貸借対照表上、短期借入金一〇〇〇万円、割引手形約五八〇五万円、長期借入金二億八五〇〇万円などの負債が、製薬会社の平成四年三月三一日現在の貸借対照表上、短期借入金五〇〇〇万円、割引手形約八七八二万円、長期借入金二億四六三二万円などの負債がそれぞれ計上されており、営業利益を上回り、かつ増加傾向にある支払利息及び割引料の存在がゾンネボードグループの経営を圧迫していること、ゾンネボードグループにおいては、平成二年一月ころ、虫歯予防薬「レノーバQ」の新規製造販売及びビタミンB6剤の拡大販売を実施して売上を増大させることを計画したが、右計画は現在に至るまで実行をみていないこと、ゾンネボードグループは、平成三年一月ころ、その主力商品であるにきび薬「びふナイト」を薬局等に販売している申立外小林製薬株式会社(以下「小林製薬」という。)から、取引価格の値下げを強く要求され、同年九月に至り、やむなく「びふナイト」の単価を約一二パーセント引き下げることで小林製薬と合意し、翌一〇月から値引きを実施することにしていたため、同月に行われた第一次解雇当時、将来的に少なくとも右値下げに相応するだけの売上減が見込まれたこと、その後、債務者会社第四期(平成三年一〇月から平成四年九月まで)において、小林製薬との取引高は、右値下げに注文減が重なったために前期の約六五パーセントである約一億八五〇九万円に止まり、他の取引先を含めた売上高も前期比約七六パーセントに落ち込んでいること、そこで、債務者会社及び製薬会社は、取引先の勧めもあり、宣伝部門を廃止する旨決定し、第一次解雇に及んだことが認められる。

(以下、前記ゾンネボード製薬事件と同文のため省略)

四  結論

以上のとおりであるので、争点四ないし六について判断するまでもなく、本件仮処分命令申立は、本件仮処分命令が認定した限度で被保全権利の疎明があり、また保全の必要性についての本件仮処分命令の判断は正当であるからこれを引用し、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 秋元隆男 裁判官 水谷美穂子 裁判官 石橋俊一)

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